Setsuko Kanie

幹周り45.1メートルというこのバオバブの木は、数ある世界の巨樹のうちでももっとも太いと見られている。

世界最大のバオバブ

(南アフリカ共和国メッシーナ近郊)

 南アフリカ共和国メッシーナの町はずれに立ち寄ったのは、旅をアレンジしてくれたガイドが父親からその辺りに大きなバオバブがあると聞いたことがあったからだった。彼女が勤めていたのは南アフリカでも大手の旅行会社だが、同僚は誰もそんなバオバブの話は知らない。彼女の父親もメッシーナに単身赴任していたころにそんな噂を耳にしただけで、確かな場所もどんな大きさなのかも知らなかった。おそらくは真面目な彼女が、バオバブの巨樹を探してアフリカを旅しているという私たちの度重なるメールに熱意を汲み取ってくれて、勇気を持って探しに行きましょうと言ってくれたのだろう。

Setsuko Kanie

アフリカでは野生動物と一緒にバオバブの写真が撮れるのでうれしい。しかし、ゾウが多い場所ではこのようにバオバブの樹皮が削られている。大量に水分が含まれたバオバブの樹皮をゾウが好むからである。


Setsuko Kanie

アフリカでは動物保護区内にあるロッジに泊まる。メッシーナでは温泉つきの快適なロッジに泊まった。夕食が終わると、近隣の村に住む人たちが民族衣装をつけて伝統的な音楽と踊りを見せてくれた。見事なリズム感で恍惚として踊る姿はまさにプロだが、終了後のシャイな笑顔がまた印象的だった。

 訪れたのは雨期の走りの11月。ガイドとともに初老のドライバーの車で町はずれへと走り出すと、すぐにスコールがやって来て未舗装路はぬかるみ出した。しばらくすると案の定、私たちの車はスタック。幸いにもたまたま近くに道路工事用のレッカー車がいて、再び車は走り出したが、雨はおさまらず道はどんどん川にようになっていく。これ以上進むのは無理だろうと思っていると、今度はパンクした。

 どしゃぶりのなか1時間以上かけて直したが、さすがに申し訳なくなって、「今日はやめましょう」と言おうすると、「アフリカでは何をするときもやり遂げるまで、ネバー・ギブアップです」と彼女がこぶしを握ってにっこりと笑った。その先も道がわからず、集落があると道を訪ねたが、私たちは「ネバー・ギブアップ」だとこぶしで合図を交わし励まし合った。そうして3時間近くかけて、この「ビッグ・ツリー」と呼ばれるバオバブへとたどり着いたのである。

 幹回り45.1メートル。これまで見たバオバブ、いやすべての世界中の木のなかで最も太い巨樹だ。

 しかし、そんなに大きいとは測ってみるまでわからない。周りにはブッシュがあって全貌が見えるまで時間があったが、根元を見ながら近づいている時点で感じられたのはとにかく異様な圧迫感。巨大なものが発する威圧感がひしひしと感じられた。
 私たちの誰一人として、こんな巨大な木を探してやって来たつもりはなかった。知っていたら当然、最初からネバー・ギブアップである。

  しかし、これほどの巨樹だったからこそ、この木の放つ磁気のようなものに引かれてやって来れたような気がする。日本でも巨樹を探して歩いていると、巨樹のある方向から猛烈な存在感が感じられるときがある。これほどの巨樹ならそのパワーも相当強い。簡単には来られなかったのもまた、これほどの巨樹なら当然だったのかもしれない。かつて見たこともない巨大な生きものを前に、私たちはここまでの道のりに多いに納得していた。