Setsuko Kanie

台湾最大の巨樹といわれる「大安溪神木」はベニヒノキで幹回り27.3メートル。標高3529メートルの大雪山の2325メートルあたりにひっそりと立つ。

台湾最大の木「大 安 溪 神 木」

(台湾北部・大雪山 中腹)

台湾に巨樹があると教えてくれたのは、法隆寺宮大工棟梁であられた故・西岡常一氏だ。薬師寺金堂再建のために西岡棟梁が台湾にヒノキ材を探しに行かれたのは昭和46年のこと。入られた山には樹齢2000〜2500年のヒノキが生えていて、「ときの流れを枯れた色に変えて、樹齢にふさわしい風格と重みが、枝にも葉にもにじみ出ていた」という西岡棟梁の言葉に、ぜひ台湾の山へ行かなくてはと思ったのである。

台湾のヒノキは日本では明治時代末期より銘木として知られてきた。日本の領有当時、ヒノキの良材の産地として名高い阿里山には木材搬出のために阿里山鉄道が敷設されている。そして、日本に天然のヒノキの長大材が少なくなった昭和40年以降、日本の神社仏閣の新築や改修に大量に利用され始めた。しかし、台風や集中豪雨のたびに河川が氾濫する台湾ではその原因が過度の木材伐採にあると見なされるようになり、近年、台湾ヒノキは伐採禁止となった。

ところで、台湾のヒノキにはタイヒとベニヒがある。タイヒは台湾扁柏を指し、台湾で最も優れた針葉樹材とされている。ベニヒは古くはタイワンサワラとも呼ばれていたベニヒノキのことで、タイヒとベニヒは日本でいえば、ヒノキとサワラのような関係にある。つまり、材としてはタイヒが格上。だが、じつはベニヒのほうが樹脂を多く含み、生命力、繁殖力ともに優れている。この台湾最大の巨樹である「大安溪神木」もベニヒで、台湾巨樹の1位から20位の19本までもがベニヒ、9位にクスノキが入っているだけである。 

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阿里山森林遊楽区に向かう車道のすぐの下の急斜面にある台湾第二位の巨樹「新中横神木」。幹回り22.5メートル、樹高40メートル、樹齢は未詳。


 

さて、この台湾一の巨樹は幹周り27.3メートル。樹高は55メートルで、推定樹齢は2500年。日本一の巨樹である「蒲生の大楠(幹周り24.2メートル)」よりも太いのだが、台湾は日本よりも巨樹信仰が一般的でもある。屋久島にあるヤクスギランドのような、巨樹がある神木園区や森林遊楽区が何ヶ所もあり、週末には家族連れなどで賑わっているからだ。そこには「○○神木」と名前のついたベニヒの巨樹が何本も保護されている。

 こういった保護区にある巨樹は見に行きやすいのだが、この大安溪神木のように山中にひっそりとあるような木はそうはいかない。最近は看板も付けられ、木のすぐそばまでクルマで行けるようになったが、私たちが最初に行ったときは10時間も歩かねばならなかった。そうして近くの廃屋に泊まり、山中を探し回り、また10時間歩いて戻った。しかし、やっとの思いで辿り着いた先には何故かいつも期待以上の巨樹が鎮座している。隆々とした幹はまさに深山の王者の風格。葉も旺盛なエネルギーを見せつけるように青々として若木のように大量についていた。

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幹回り14メートル、樹高55メートル、樹齢2700年の台湾第10位の巨樹「達観山21号神木」がある達観山森林遊楽区は屋久島のヤクスギランドのように巨樹巡りができることで有名な場所だ。


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台湾第7、8位の巨樹がある新竹県の観霧森林遊楽区。台湾にはこのように巨樹を見ながら森林を楽しめる保護区が数多くある。上は8位の巨樹で幹回り16.3メートル。