Setsuko Kanie

ギネスブックで「現存するもっとも巨大な木」と認められた「シャーマン将軍」の木。根の広がりは30メートル

世界最大の木「シャーマン将軍」

(カリフォルニア州・セコイア国立公園)

 樹高83.8メートル、幹回り25.3メートル、根も含めた重さは2500トン。その高さは27階建てビルに匹敵し、建材にするとアメリカの平均的5LDKが40軒は建つ。これが世界一巨大であると公認された「シャーマン将軍」という名のジャイアント・セコイアの木である。樹齢は2800年だという。
草のない裸の大地にまっすぐに伸びるその巨体を目にしたとき、この物体がいまも息をし、成長を続けている生き物だということがすぐには理解できなかった。あまりの巨大さと威風堂々とした形の良さがそう思わせたのだろう。しかし、この木はいまだに毎年15立方メートルの容積を増やして続けている。
シェラネバダ山脈の中腹に位置するセコイア国立公園には、シャーマン将軍のほかにも多くのジャイアント・セコイアがある。みな同じように巨大に育っているから、頑丈なコントラクションが彼らの特徴だ。さらにジャイアント・セコイアは恐竜時代から生き続けてきた樹種でもある。サバイバルという意味でもセコイアの木は強い。そして、セコイアの木は巨体を生み、それを育て、世代更新を促すために、ほかの木々には大敵なものを必要不可欠としている。
シェラネバダの夏はほとんど雨が降らない。ジャイアント・セコイアはその分を、3〜5メートルに達する冬の豪雪期に貯め込んだ水分で賄っているのだが、雨が降らなければ山火事が起きやすい。じつは、水と太陽以外にジャイアント・セコイアになくてはならないのはこの山火事だ。
セコイアの木のマツカサは毎年2000個ほど生まれるが、20年ほど閉じたままで樹上にとどまる。種はマツカサが開かなければ地上に落ちることはないが、不思議な自然の摂理で火事による熱を浴びなければセコイアのマツカサは開かない。また、森には腐葉土が積もっているが、種はその下にあるミネラル土壌に触れないと発芽しない。火事が腐葉土を燃やしてミネラル土壌を露出する役割も果たしてくれるのである。種を撒き散らすにはマツカサを食べるリスや昆虫なども手助けをしてくれるが、その種もミネラル土壌でないと発芽しない。
こうしてほかの潅木や木が焼けてしまう山火事を利用できるのは、ジャイアント・セコイアの樹皮には炎や熱、害虫や苔に強いタンニンが大量に含まれているからである。セコイアはほかの木のように切り株や根から萌芽することはない。種からの発芽によってしか更新しない。いわば、山火事がジャイアント・セコイアのいのちの鍵だ。ほかの木々の大敵である火が味方につけるとは、まさに世界最大の樹種にふさわしい生き方のように感じられはしないだろうか。

Setsuko Kanie

スギ科のジャイアント・セコイアは100年以内に高さ30メートルに達する。幹が黒くなっているのが山火事の跡


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セコイア国立公園の8本群「パーカーグループ」。根の広がりが見えないため根元は木というより巨大な動物の足のよう。園内は直径5メートルほどのセコイアが10数本まとまった巨木群があちこちにある

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初夏のセコイア国立公園。冬の積雪で蓄えられた地下水が緑を育て、とくに水が豊富なところは湿原になる

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4〜6月セコイア国立公園に咲くスノープラントは春を告げる鮮やかな花

Setsuko Kanie

セコイアの種を地上に落とすにはリスや昆虫と山火事の熱が必要になる。さらに種が火事で焼かれた土壌に落ちないと発芽しない。