Setsuko Kanie

ムルンダバ郊外にあるバオバブ・アベニュー。推定樹齢1000年クラスのバオバブの巨木が赤土の道の両側に林立している。しかし、周辺では水田開発が進み、何本かのバオバブが倒れ始めていた。

バオバブ・アベニュー

(マダガスカル・ムルンダバ)

 バオバブの木はその奇妙な樹形と、サン・テグジュペリの童話『星の王子さま』に登場することで、巨木に興味がない人たちの間でも知られているが、この木はじつに世界に9種類ほどもある。そして、そのうちの8種類までがマダガスカルに生育している。あとは、オーストラリアとアフリカ大陸に1種類ずつあるのみだから、その発祥の地はマダガスカル島だと考えられている。
日本の1.6倍の面積を持つマダガスカルは、アフリカ大陸の南東、インド洋上に浮かぶ。サツマイモのような形の島だが、植物学者たちはこの島を「第7の大陸」と呼ぶ。アフリカ大陸とは400キロほどしか離れていないのに動植物の固有種が圧倒的に多いからで、横っ飛びする原猿類ワオキツネザルや巨大なサボテンのような木、まっ赤な花が咲くつぼのような木など、世界中のどこでも見たことがないような生きものがマダガスカルにはたくさんいるからだ。とくに、マダガスカル産の全植物1万4000種のうち、4分の3以上は固有種。そのため、不思議の島とも、島というより大陸と呼ぶのにふさわしいといわれているのである。
そんなマダガスカルの不思議な生きものたちのなかで、いちばん大きな生きものが何を隠そう、バオバブの木である。
「神さまが逆さまに植えた木」ともいわれているように、枝が幹の上のほうにしかなく、根のように見える。幹も何かが詰まっているように膨らんでいる。ほかの木とは違うこの樹形が、木に興味がない人をも惹きつけるのだが、バオバブのこの奇妙な形にはサバイバルのためのメカニズムが潜んでいる。
ご存知のように、木は緑の葉で光合成をして栄養分をつくっている。葉がたくさんあれば養分もたくさんつくれるが、同時に葉は根から吸い上げた水分も蒸発させる。つまり、葉がたくさんあるとそれだけ水分が大量に必要になる。そのため、乾燥地に育つバオバブは自ら下枝を落としながら大きくなり、葉の数を減らしているのである。その分不足する光合成は、樹皮の下を緑色(葉緑素)に染めて、ひそやかに養分を蓄えている。幹が太く膨らんでいるのも、そのなかに乾期を生き抜くための水分をたっぷりと溜め込んでいるためだ。
バオバブ・アベニューはマダガスカルを訪れる観光客のほとんどが足を運ぶ地である。8種類のバオバブのなかでもっともスマートに育つグランディディエリという種類が林立している。ここのバオバブたちはユニークというより、神殿の柱のように気高くそびえている。過酷な自然との共存のための樹形だとは感じさせないが、自然に耐え抜くきびしさを微塵も感じさせない巨木の美しさこそが、人々をここに向かわせている理由であるに違いない。

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樹皮を剥いだあとのバオバブの木。少年が持っているのは絶滅した巨鳥エピオルニスの卵を復元したもの

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バオバブ・アベニューの近くには民家が数軒あるだけだが、そこの子どもたちがバオバブの実を売っている。実は子どもたちのおやつ。

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バオバブの樹皮は復活するので、こうして剥いでは市場などで売ったりしている。樹皮は牛を引くロープや、屋根材、ゴザなどに使う。

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グランディディエリの花。木に着いているときは白く、おしべの先はオレンジ色。キワタ科らしい花だ。

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幹をこすると葉緑素がのぞく。こうして樹皮下を緑にして光合成を補っている。